2003年

ーーー6/3ーーー 無塗装の椅子

 
今週出荷する予定のアームチェア「CAT」は、無塗装である。つまり塗装を一切施さずに、木地のままの状態で制作を終えている。無塗装の製品を納入するのは、私が記憶している限り、大竹工房にとって始めてのことである。

 お客様が塗装をするというわけではない。塗装をしていない椅子を使いたいと言うのである。理由は、アレルギーとのことだった。塗料によるアレルギーが心配だと言うのである。塗装だけでなく、接着剤についても問い合わせを受けた。結論としては、椅子が完成してから半年ほど期間をおいて接着剤を乾燥させ、それから使用するということになった。

 私の家族にはそういうアレルギーが無いので、少し神経質過ぎるのではないかと思ってしまう。しかし、ご当人は切実なのだと思う。椅子は日用品であるから、使う人の健康に障るものであってはならない。このようなリクエストを無視するわけにはいかないと思う。

 ところで、ムクの木の家具を無塗装で使うというのは、それはそれで、なかなか気持ちの良いものである。我が家でも、試作品の椅子をそのままダイニングで使っているが、無塗装である。手触りが自然で、肌に心地良い。また、使っているうちに、手垢がついて独特の艶が出てきた。谷崎文学によると、我が国は「手垢の文化」だそうである。塗装品にはない味があるとも言える。

 今回の「CAT」は、塗装をしないということで、木地の仕上げ、つまりペーパーがけを普段より入念に行なった。いつもの二倍くらいの時間をかけた。話が逆のように感じられるかも知れないが、塗装を施さなければ、木地の仕上がり具合がはっきり出てしまう。一工程省けたから楽になったということには、ならないのである。



ーーー6/10ーーー チルチンびと」に登場

 6月5日発売の雑誌「チルチンびと」の、木工家具作家特集144ページに私が登場しています。ごく小さく出ているだけですが、機会が有ればご覧下さい。応募した作家の中から選抜して掲載するということでしたが、それにしては扱いが小さくて、少々がっかり。ところで、私のコメントは主旨が他の人と違っていて、ちょっと違和感。顔写真も身分証明用の写真を使ったので、木工家らしくない !?



ーーー6/17ーーー 丸山健二氏の庭

 
知人に誘われ、週末に作家丸山健二氏の庭園を見に行った。場所は我が家から車で三十分程度、大町市郊外の田園地帯の中にある。作家自らの手で、三十年間に渡って作り上げられた庭は、大きさはさほどでもないが、白い薔薇と芍薬(しゃくやく)をメインに、数々の美しい植物で彩られていた。その花の香りの強さは、残りの半日私の中に漂っているほどであった。

 「私だけの安曇野」という作品しか読んだことがなかった。簡単に言えば、安曇野の人と風習を悪く書いた本である。
よその土地から移り住んだ者が、多かれ少なかれ感じる不満を、代表して書いてくれたような本である。とにかく無法者的、無頼漢的な激しさが印象的な本だった。そのような人が作った庭園がどんなものであるか、私には想像もできなかった。そして実際に拝見した後でも、そのギャップは埋められなかった。

 この庭園に関して、作家は三冊の本を出している。「ひもとく花」と題した作品は、作家自身が写真を撮り、文章を添えたものだ。一度手に取って見ることをお勧めしたい。

 ネットで調べたら、丸山健二という作家の凄さが想像された。これを機に、氏の作品を読んでみようと思う。またまた忙しい日々になりそうである。



ーーー6/24ーーー 槙野宅のカレーパーティー

 日曜の午後は、大町市郊外に住む木工家槙野文平氏の工房で行なわれた、カレーパーティーに参加した。氏は木工家具制作のベテランで、作風は野趣に富み、豪快そのものである。白州正子さんに認められたことで有名になり、多くのファンを持つこととなった。氏はたいへん魅力的な人柄であり、それを慕っていつも誰かが回りを取り巻いている。

 氏の連れ合いの美代子さんがこの3月にインドを訪れた。「アジアの僻地に飲み水を(井戸掘りを)」というNGOの現地視察として行ったのである。そこで手に入れたスパイスを使って、本場インド風カレーを作ってくれることになった。パーティーの会費から材料費を引いた残りは、その団体に寄付するとのことだった。

 彼女の話によると、現地人は朝食以外は全てカレーを食べるとのことだった。昼も夜も、毎日である。やり方は、地面に石を三つ置いて三角形を作り、その中で火を焚き、鍋をかける。これが二組あり、一つの鍋はカレー、他の鍋は油を暖めて揚げ物をする。日本のようにカレーの中に具を入れて煮込むのではない。野菜や鳥肉を油で素揚げしたものをライスの上にトッピングし、そこにカレーをかけるのである。だからカレーはシャバシャバのスープ状である。こうすれば、トッピングの種類を変えるだけで、毎回違う味を楽しめるというわけだ。

 はたしてそのカレーはたいへん美味であった。入っているスパイスの種類がものすごく多いのである。シンプルだけど飽きがこない、簡単そうで奥が深い、それが常食されるカレーの真髄なのであろう。

 パーティーもたけなわの頃、文平さんの知り合いのギタリストが、魚を一匹持って現れた。昨夜新潟の海で釣り上げたものだそうだ。「キジハタ」という名の魚である。味が良いことで知られているとのこと。釣り上げた本人と文平さんの二人で、それをさばいて刺身にした。皿の上に朴葉を敷き、その上に盛り付けるあたりが、粋である。見かけは鯛に似た白身だが、味はもっと濃い。コリッとした歯触りが心地良かった。

 酒を飲んで話をしているうちに夜になった。文平さんが、こんどは潮汁を作ってくれた。これがまた、刺身に劣らず美味であった。多少過ごした酒で重くなった腹が、すっきりとした。




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